イベリスの花言葉。
あたしの思いが、彼に届いたのかどうかは、正直言って判らないけれど。
それでもあたしの前を通る彼は。
あたしの方は決して見なかったけれど、前を向いているような気がした。
彼はきっと、奥さんの元に戻ってくると思う。
一番に。子供がいたなんて。
その子供に寂しい思いなんてさせちゃダメだよ。
しっかり罪を償って、戻ってきてあげてね。
扉の向こうに消えていく彼の背中を見送って、あたしは陸に声を掛けた。
陸は、奥さんに一言二言、何かを必死に伝えていた。
口説いているのかな、と馬鹿なことを考えて痛む胸を自覚する。
「大丈夫でしたかな?」
冷たい表情の警察官に、にっこり顔とピースを添えて厭味ったらしく返してあげた。
「あたし、やればできる子だから。」
「ねぇ、陸。」
「ん?」
手はつないだまま、社長のリムジンに乗っていた。
時々わずかに揺れる車体をゆりかごのように感じて。
2人は酷く疲れていて、ぐったりとソファに凭れていたけれど、
あたしはどうしても言いたいことがあって彼の耳に顔を寄せた。
まだ、お互いに知り合ってあまり長い時間は経っていないけれど・・・。
「好きだよ。」
運転している社長に気が付かれない様に囁き、彼の唇に軽くキスをした。
そのままあたしは気が抜けて、眠気に誘われるまま夢の中に落ちていっちゃったみたいだった…。
顔を赤らめた陸が社長に冷やかされつつもあたしにお返しのキスを落としたのは、また別の機会に。