弱虫うさぎの涙雨


「お前さ、何で言わねぇの?」


学校からでて10分くらいたったころ突然健兎はそう言った。


「なにを?」


私が手を引いていたはずなのに、いつのまにか前を歩いていた健兎に言葉を返す。


「苦しいんだろ、ホントは」
「なにが?」


まぁ、わかってはいるんだけど悔しいから嘘をついた。


「とぼけたってわかってんだぞ」
「何のことだかさっぱりね」


そう言うと、健兎は立ち止まった。


「どうしたのよ?」


健兎は拳を握りしめ、下を向いていた。


「今日……上靴濡れてただろ」
「あぁ、あれはたまたま水たまりがあって」
「馬鹿かよ、廊下に水たまりなんてあるわけねぇだろ」
「…………」


しばしの無言。


「前、言ったよな。何かあったら、すぐ言えよって」
「……言ったかも、しれないわね」
「言ったよ。どうして、今日すぐ言わなかったんだ?」


健兎の声色でわかる。


こいつ怒ってるんだ……。
また、怒らせちゃったなぁ。


知り合ってから同じようなことで怒らせてばかりいる私は学習力がないんだろう。


と、一人で勝手に納得した。


「言わなかったんじゃないわ。言う必要がないと判断したの」


人通りのない道で二人ぽつんと立っている。


「私にとって上靴が濡れていることはそんなに重要視されていないの。問題ないわ」


健兎が振り向いた。


そして、私の肩を強く握る。


< 9 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop