こっちにおいで
こっちにおいで
「もういい加減我慢できないんだよね」

ファインダー越しに向かい合う男が、淡々と言い放った。
カシャリ、と。
シャッターの切れる音に顔を上げる。

「——…」

そいつを睨みつけた。

男はふっと笑って「やればできんじゃん」と言ってどんどんシャッターを押していく。私はその挑発に乗って次々に身体を動かしていく。

——冗談じゃない。


「じゃ、上がり」

男は今まで構えていたカメラを下ろした。私は一度ゆっくり目を閉じて呼吸した。さすがに、疲れたかも。結構な時間カメラの前にいたので、集中が解けると一気にくる。

「油断してんね」

カシャリと、再び聞き慣れた音がして男を見た。イタズラっぽく笑うその顔を睨みつけるも効果はなくて。脱力する。

「…リュウ、あんたねえ」

機材を片付け始める男に声を投げ掛けるも、意味がないような気がして言葉を噤んだ。…私も着替えに行こう。


郊外にある撮影用の一軒家を借りてカメラマンとモデルのふたりだけで撮影。これはカメラマンであるリュウの個人的な作品作りのための撮影だ。私はそのモデルに彼から直接指名された。

『俺、あんたに惚れてんだよね』

そう、あまりにも普通に言うから、素で照れてしまった。
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