こっちにおいで
駆け出しのカメラマンである彼のことを事務所は知っていたみたいで、私の意思を聞く前にこのオファーを面白がって受けた。
実際私もリュウと仕事をするのは面白かった。

リュウとなら絶対良いものを作れる。

初めて彼の前に立ったとき、そんな直感がした。
彼なら最高のものを撮ってくれるだろうし、私も彼の要望に応えられる。

いや、応えたい。

でも、それは仕事上の話なのだ。


着替えのために部屋を出ようとすると「綾菜さん」と呼び止められた。

「着替えとかいいよ」
「は?」
「言ったじゃん。もう我慢できないって。ちょっとこっち」

再び「は?」と言い掛けるけれど、それよりも急に腕を掴まれたことにびっくりしてしまった。こうして近付くと案外背の高いことを、私は知っている。

「…リュウ、」
「来ないから来た」
「私、」
「だから早く俺のとこに来ればいいのに」

彼氏が、そう言おうとした私の言葉を遮り、彼は私にそっと口づけた。

「まあ時間の問題だと思うけどね」

やめてよ、と言いたいし言いたくない。
結局何も言えず彼に判断を任せるのは私のズルイところなのだ。
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