【短編】 あじさいが咲く頃に
「ただいまー」
紫陽花を庇うようにして家に帰ると
服はびしょ濡れになっていた。
マジで傘意味なかったな。
「お帰りーって濡れすぎでしょ、健!!」
「…理加、来てたの」
心の奥深くに閉まっていた感情が
溢れそうになる。
「和也と結婚式について話し合いにね。
あと1週間だよー」
「7月とか暑い時によくやるよ」
「なにその他人事みたいな言い方!
ちゃんと式出なさいよ!!」
怒った口調でも顔はすげぇ笑顔。
本当に幸せって顔。
彼女の細い左手の薬指には
きれいに光る、人のモノっていうしるし。