【短編】 あじさいが咲く頃に
俺もそれ以上言葉が出なかった。
いつものモテ男の俺なら
会話なんて考えなくても出てきたのに。
でも、今は何も出ない。
雨がウザイから?
紫陽花に目を奪われているから?
頭の隅でぼんやりと
理加を思い出しているから?
それとも、隣に立つ彼女の
独特の空気のせいだから?
「…紫陽花の花言葉、知ってますか?」
「えっ、いや。 なに?」
急に話をフラれて驚きつつも
良く通る凛とした彼女の声が心地よかった。
「一般的なのが、花の色の変化から
移り気や心変わりを意味しているんです」
今だに強い雨。
その中を彼女の声が響く。