* another sky *
「なぁ。今日、吉野どうする?」
「…だから、残業って…。」
机の上の図面を叩きながら、恨めしそうに諏訪さんを見上げた。
「残念やなぁ。じゃあ、また今度な。」
「ええー。」
わざと悔しそうに脹れると、諏訪さんは、にーっと片方の口角を上げて私の机から図面をひったくる。
「しゃあないなぁ。
俺がフルパワーで手伝ってやるか。」
「ありがとうございますっ。ご祝儀はずみますからね。」
「祝儀はええから、今日は奢ってくれ。」
「何でやねん。」
関西人の諏訪さんとは、こんな掛け合いが毎日の日課のようになっていて。
「何でやねん、の発音がまだちょっとな…。」
「あ、違いますか?」
ケラケラと笑い合う私たちの後ろから、
「あんたたち…、また、やってんの?」
と、桜木さんが呆れたように溜め息を吐く。
「ほら、さっさと終わらせて飲みに行くよ。」
「はーい。」
「ういーっす。」
週の3日は、こんな感じで諏訪さんと桜木さんと食事に行く。
家に帰っても一人で食事する私にとって、嬉しい誘いだった。
仕事をしていると、過去の思いに苛まれないですむ。
だからこそ、この2年間、がむしゃらに頑張ってきたんだ。
できれば、……。
佐藤君とは、このまま関わらずに仕事が出来たらいいな…。
でも、そんなわけに、いかないか。
だったらもっと、私が強くならなきゃ駄目だ。
自分の弱さに…、負けたくなかった。