* another sky *
「航太君ね、あなたのこと、忘れていない。」
「……っ!!」
航太の名前に、動揺してしまった。
思わず近くにあった椅子の背を、握りしめる。
「転勤になったの。カナダに。」
「……っ。」
「2年だって。」
――――――!!
「ごめんなさい。
関係ないってわかってるんだけど…。」
いたたまれなさそうに目を伏せる千尋さんに、胸が苦しくなる。
ごめんなさい、千尋さん。
私にはどうすることもできない。
今だって、―――――。
本当は、この場所から逃げ出したかった。
航太の名前に、こんなに動揺してるようじゃ、駄目だ。
「じゃあ。」
私は必死に取り繕って、笑ってみせた。
上手く笑えている自信なんて、ない。
でも、いい。
ここから早く、立ち去りたい。
「…また、会えるといいわね。」
「…はい。」
千尋さんも、私の気持ち、わかってるんだろうな…。
一瞬、悲しそうな視線を、私に向ける。
「千尋さん、お元気で。」
「玲ちゃんもね。
仕事、頑張って。」
ふわっと表情が緩んで、千尋さんが笑ってくれたのを見た時、無性に寂しい思いが胸を駆け抜ける。
こんな偶然、二度とないだろう。
お互い、もう会うことはないだろうと解っていたから。
その時、だった。