* another sky *
「千尋さんっ。」
私の後ろから、聞こえた声。
懐かしい、懐かしい、あの声…。
―――――――!!
刹那、身体が硬直する。
振り向きたく、ない。
相手も固まっているのが、背中越しに伝わってくる。
「…れい、…なの?」
ああ、やっぱり。
この声は、―――――。
忘れるなんて出来ない、あの柔らかな声。
血の気が引くとは、このことだ。
強張ったまま、椅子の背を握りしめていたせいか、爪の先まで真っ白になっていた。
困惑したような瞳で私を見入る、千尋さんと目が合った。
どっちにしろ、振り返らないわけにはいかない。
この場から離れるには、顔を合わさなきゃ逃れられないんだ…。
ゆっくりと、振り返る。
そこには懐かしい顔が、驚いた表情のまま、私を見つめていた。
「……っ!!」
やっぱり。
忘れることなんか、出来ないよ…。
「玲…。」
だって、あなたが私を呼ぶ、その声が……。
好きだったんだから、……。
「玲…、久し振りだね。」
クラリ、とした。
驚いていたその表情は、少しはにかんだような笑顔に変わる。
懐かしい友人に会ったかのように、その瞳は嬉しそうに弧を描いて。
まるで私たちの間には、確執なんてなかったかのように。