* another sky *


「吉野…。」


桜木さんの手のひらが、頭を撫でる。

私が話さない限り、何も聞かないんだろうな…。

桜木さんて、そういう人。

こちらから踏み込んでいかない限り、静かに見守ってくれる。

物足りないと感じる人もいるだろうけど、私にはこの距離感がすごく有り難い。


「大丈夫です。
すみません、ご迷惑をおかけして。」


「何も、迷惑だなんて思ってないよ。
お昼、どうしようか。
何か買って帰って、会社で食べる?」


「そうですね……。」


やっと気持ちも落ち着いてきたかと、思ったのに。


「玲っ!! 待って。」


私を呼ぶ声に、愕然とした。


「…麻友理…。」


もう、関わりたくないの。

私、前を向いているの。

それなのに…、何で?

まだ、私を苦しめるの?


「玲…。あのっ。」


カチリ、と音を立てて、運命の歯車がまた周り始めたように聞こえた。


嫌だ、―――――。


麻友理の口から、何を聞かされるのか、怖い。


「玲、あのね。

…連絡先、教えてっ。」


―――――――!!


は……?


何、言ってるの……?



「お願い。携帯を…。」


「……っ。」


さっき店の中で見せたような、笑顔なんて、なかった。

私もそうだけど、麻友理も全然余裕なんて、ない。
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