* another sky *
桜木さんは諏訪さんに近付くと、すっとしゃがんで耳元に口を寄せる。
「行って来るね。」
「おう。飲み過ぎんなよ。
…って、何やっ。」
桜木さんの一連の仕草に見惚れていた私に、諏訪さんは突っ込みを入れた。
「いや…。
本当に、美女と野獣かと…。」
「吉野、絶対『鈴花』やからなっ。」
「わかりましたよ。」
後で、『鈴花』に予約を入れなきゃ。
2800円のすき焼き御前。
美味しいんだよなぁ。
諏訪さんの事だから、きっちり仕事は仕上げてくるだろう。
結婚式前の、忙しい時間を割いてもらった二人の心遣いに感謝した。
「それで、―――――?
今日追いかけてきたのがその親友ってこと?」
「はい。」
私は包み隠さずに、話をした。
航太との出会いも、麻友理の事も、梨花や綾子のことも、佐藤君の事も、誕生日もスノボもクリスマスも年末のことも。
そして全てを絶って、今のこの状況の事も。
「…んー。
じゃ、元カレとその親友とやらは、まだ続いてるんだね。」
「そう…みたい…、ですね…。」
桜木さんは焼酎に切り替えて、黙って私の話を聞いてくれる。
「で、吉野はどうしたいの?」
「…っ。」
どうしたいか、なんて…。
だってもう、関わりたくなんかない。