* another sky *

「思い出したくも、なかった…。」


「そっか。そりゃそうだよなぁ。
ドロドロの昼ドラみたいだもんね。」


「…ですよね…。」


「ったく、何で携帯教えたの。」


あの時、桜木さんは私の心情を見越すかのように助け舟を出してくれたのに。

あの麻友理の、表情…。

つい、気圧されてしまったんだ…。


「…Green Fieldsに就職したことは知っているはずだし…。

会社に連絡されるのだけは、嫌だったんです…。」


「適当な番号でも書いときゃいいのに。
ま、そういう律義なところが吉野なんだけどね。」


「……っ。」


「親友の彼氏を奪っておいて、さらにまだ話したいことがあるか…。
困っちゃうね。」


「…困ってます。
自分じゃあもう、どうしたらいいのか…。」


「じゃ、放っとこう。」


「えっ。」


「放っておけばいいじゃん。
吉野に話は、ないんだし。」


放っておく……?


「放っておいて…、いいんですか。」


「いいんですか、って。
吉野に話がないのなら、相手することないじゃない。」


「あ……。」


何だか、あまりにもシンプルで。

あまりにも的確なアドバイスだったので、私は面食らってしまった。


「…ちょっと、混乱してます…。」


「吉野はもう、そこから既に、降りてるんだよ。

どうしてまたそこに上がらなきゃいけないの。」


ああ……。

そっか。


目から鱗が剥がれ落ちたかのように、私は一瞬、狼狽えた。

固く縛られたままだった糸が、するすると解けていくようで……。


放っておけば、いい。


その言葉に救われたような気がした。
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