* another sky *


だけど、―――――。


現実は、私を放っておいては、くれなかった。


そろそろ帰ろうか、という時にカバンの中で携帯が鳴っている事に気付いた。

桜木さんに話をして気が緩んでいたのか、私はその声を聞くまで、状況が理解出来なかった。


「はい。吉野です。」


「…玲?」


――――――!!


私が固まったのを見て、桜木さんは察したようだ。

声を出さず、『トイレ』と言い残し、席を離れていく。


「玲?」


「あ、うん。」


「今日、久し振りに会ったね。」


「そうだね。」


麻友理のトーンは、離れていた期間を感じさせない。

ずっと今までも一緒にいたかのような、声だった。

それなのに、私の心臓は跳び跳ねるように脈を打っていく。


「今、いい?」


「ごめん。今、外なんだ。」


「あ、そうなんだ。
じゃ、またかけ直すね。」


『またかけ直すね。』

そのひと言に、私は慌てて反応する。


また今度、なんて…、私にはいらない。


「あ、何?
…少しだけなら。」


「あ、いいの?」


麻友理は一呼吸おいて、話し始めた。


「あのね、航太がね、カナダに転勤になったの。」


媚を含んだような甘ったるい声に、鳥肌が立つ。


「うん。」


「あ、知ってたの?」


「今日、千尋さんから、聞いた。」


「そっかぁ。千尋さんたら、余計なこと…。」


「……っ!!」


「それでね、私、付いて行くことにしたの。」


「…うん。」


「今日ね、その買い物をしようと千尋さんと一緒だったんだけど…。」


麻友理って、こんなに嫌な話し方をする子だったっけ?


違う。

私の知っている麻友理とは、全然、違う。
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