* another sky *
「新しいプログラム??」
「いや。一昨年の。」
「ふーん。」
上原 翼。
ウエハラ タスク。
彼は去年現役を引退した、フィギュアスケーターだ。
今はインストラクターとなり、後輩たちの指導をしている。
彼は週に2回、自分でリンクを貸し切り、練習していた。
ただ、個人で貸し切るとなると、どうしても朝早くか夜遅くになる。
誰もいない、たったひとりの観客になれるこの贅沢な時間が、私は好きだった。
ダイナミックなジャンプと、美しいスピン。
そして磨き抜かれた演技力。
凛とした、翼の集中力は素晴らしい。
私が居ようが居まいが、関係ない。
常に、自分と戦いながら、自分と向き合う姿に、私は否応無しに惹かれてしまう。
私には無い、強烈な個性、人間性に、単純に憧れているんだと思う。
ふらっと立ち寄って、少し会話して。
それだけなのに、何故か癒されて。
だけど、―――――。
壁を取り外せない私は、踏み込めないで、いた。
翼の気持ちは…、ちゃんと伝わっている。
わかっているけれど、私がそれを、受け付けないだけ。
だから、翼も何も言わない。
何も言わず、そばにいて、普通に接してくれていた。
この、『普通』が何よりも有り難くて、翼の前だと、少しずつ素直に本音が言えるようになってきていた。
それが、ここ最近、―――。
お互いの気持ちが、友達から少し変わったように思う。