* another sky *

ピンと張りつめた冷たいリンクの空気感と、そこで魅せる翼の存在感が、いつも私を無にしてくれる。

華やかなショーとは違って、彼の地味でストイックな練習風景を見るのが、私は好きだった。

何も考えなくてもいい、贅沢で心が満たされる、時間…。


やっぱり、来てよかった。


私は選手の頃の彼を、知らない。

現役最後の試合を、一度、見ただけ。



本当に、偶然の出会いだった。



諏訪さんが手がけている公園設計の仕事で、私はあらゆる公園の、休憩スペースの写真をたくさん撮っていた。


あるスポーツ公園の、休憩スペースを写真に収めていた時だ。


広大なスペース持つその公園は、各ブロックで雰囲気が違うこともあり、たくさんの年齢層が集う場所だった。


「すみません。
写真は後にしてもらっていいですか?」


急に声をかけられ、私は驚く。


「え、――――?」


さっきまで、近くでトレーニングをしていた青年だった。


「ちょっと今、集中したいんで。
写真は後で、お願いします。」


きちんと頭を下げ、またトレーニングに戻って行く。


え、――――。

誰? スポーツ選手?? 


彼を写真に収めていたわけじゃない。

直ぐに、立ち去っても良かったんだけど…。


男の人なのに、線が細い。

一つ一つの動きが、あまりにも綺麗で…。


ダンス?

バレエダンサーとか…?


戸惑いつつも、つい見惚れてしまったんだ。
< 258 / 769 >

この作品をシェア

pagetop