* another sky *
ピンと張りつめた冷たいリンクの空気感と、そこで魅せる翼の存在感が、いつも私を無にしてくれる。
華やかなショーとは違って、彼の地味でストイックな練習風景を見るのが、私は好きだった。
何も考えなくてもいい、贅沢で心が満たされる、時間…。
やっぱり、来てよかった。
私は選手の頃の彼を、知らない。
現役最後の試合を、一度、見ただけ。
本当に、偶然の出会いだった。
諏訪さんが手がけている公園設計の仕事で、私はあらゆる公園の、休憩スペースの写真をたくさん撮っていた。
あるスポーツ公園の、休憩スペースを写真に収めていた時だ。
広大なスペース持つその公園は、各ブロックで雰囲気が違うこともあり、たくさんの年齢層が集う場所だった。
「すみません。
写真は後にしてもらっていいですか?」
急に声をかけられ、私は驚く。
「え、――――?」
さっきまで、近くでトレーニングをしていた青年だった。
「ちょっと今、集中したいんで。
写真は後で、お願いします。」
きちんと頭を下げ、またトレーニングに戻って行く。
え、――――。
誰? スポーツ選手??
彼を写真に収めていたわけじゃない。
直ぐに、立ち去っても良かったんだけど…。
男の人なのに、線が細い。
一つ一つの動きが、あまりにも綺麗で…。
ダンス?
バレエダンサーとか…?
戸惑いつつも、つい見惚れてしまったんだ。