* another sky *

彼はこの一年で引退をすることを決めていて。

引退した後のことで、悩んでいた。


「どうやって現役に区切りをつけたの?」


そう聞かれて、私は困ってしまった。

怪我で、現役続行できなかったからだ。

仕方がなかった、というのが私の答えで、諦めることしかできなかったから、というのが理由。


私は知らなかったんだ。

26歳という彼の年齢で、現役を続けていることは珍しいということを。

やろうと思っても、簡単に出来るものじゃ、ない。

強固な精神力と、揺るぎない競技への思いがそうさせているんだってわかるから…。

私は素直に尊敬して、改めて、彼のストイックさに感動したんだ。

だって、私ももう少し、続けたかった。

終わりは、自分で決めたかったから…。


「見に来る?」


そう言われて渡されたのは、彼の現役最後の試合のチケットだった。

ガッツポーズをする選手もいれば、項垂れてリンクを去る選手もいる。


「次、翼だ。
諏訪さん、翼ですよっ。

ふわあ、一人っ、この広いリンクの中に、一人ですよっ。

頑張ってえええ。」


「煩いなぁ、もう。お前は親か。」


会場に入って席に座った時からすでに、感動して胸がいっぱいになっていた私。

ヒョロヒョロとした私の声に、諏訪さんの突っ込みが決まった時、彼の名前がコールされた。
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