* another sky *

「渡瀬さん、玲に別れようって言ってないでしょ?」


――――――!!


航太は…、航太は…。


「…時間が、欲しいって…。
ずるいのは、わかってるけどって…。」


そうだ。あの時、航太は時間が欲しいって…。

私はそれを、別れを前提に少し距離を置きたいんだって、受け取ったんだ。


「やっぱり…。」


大きな溜め息を吐きながら、綾子は遠くを見つめた。


「多分、麻友理はわかってるから。

自分が選ばれたんじゃなくて、残っただけなんだって。

だからね、玲の影に怯えるのよ。」


「残った……。」


「二人がちゃんと付き合い始めたのは…、最近よ。」


「最近…?」


そう…、なんだ。

あれからずっと、続いてたんだって思ってたよ。


「健気に頑張ってたよ、麻友理。

ま、あの子は本来尽くすタイプだけどさ。

…だけど、ねぇ。

渡瀬さんの心の中には、まだ玲がいると思ってるんだろうなぁ。」


ぐらぐらしている私の頭を、綾子は自分の肩にもたれさせた。

私はそれに甘えて、そのまま目を閉じた。


「麻友理は、不安なんだろうね。

一緒について行きたいんだろうけど。

離れたら終わりだと思ってるんだろうなぁ。」


「自分が奪って手に入れたからでしょっ!

また渡瀬さんが浮気するんじゃないかって。

だから今さら、玲に電話なんかしてくるのよっ!」


浮気、――――。

梨花の声が、深く沁みていく。
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