* another sky *

駅の構内にある、カフェバー。


佐藤君はすかさず、

「生ひとつ。」

と注文した。


「え、――――。
会社、戻るんでしょう?」


驚いた私に、

「今日はこの後接待なんだ。だからいいの。」

と、笑う。


私の分の注文を聞きに来た店員さんに、

「あ、やっぱ、生ふたつね。」

と、頼み、事後報告のように

「いいよね?」

と、頷いた。


「え、私…、お酒は―――。」


「ちょっとくらい、付き合ってよ。」


――――――――!


「あと、冷やしトマト、焼きナス、アスパラの塩焼き。
取りあえずそれで。」


「え、あの、……。」


私の意見なんか、全く無視。


「…お茶って言わなかった?」


「ここの焼きナス、美味しいんだよ。」


屈託のない笑顔で勧められると、私も観念するしかなかった。


それはあのスノボでの、――――。


チョコレートちょうだいって、笑った時の、懐かしいあの笑顔だったから。



「航太、カナダに転勤するよ。」


…………。


ほら、やっぱり……。

仕事の話じゃ、なかった…。


知ってますと、言うべきか。

そうですかと、言うべきか…迷っていた。

気持ちの上ではもう、私の中で迷いはない。

だからといって、他人にまで…。

潔く、立ち向かって行かなきゃ駄目なの…?
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