* another sky *


静かに時間は、過ぎていく。


もうすぐ、夜が明ける。


取りあえず、……。

俺がここにいても、何も出来やしない…。


「玲、―――。

俺ね、一旦、帰ろうかと思うんだけど。」


「えっ?」


「俺がいても、何の役にも立たないし。

その方が、藤池さんとも話が出来るだろう?」


言い聞かせるように語り掛ける俺を、じんわりと潤んだ瞳が見つめる。


「そ、だね…。

ありがとう。翼。

一緒に来てくれて、心強かった…。」


あーあ、…。

こんな時にも必死に笑顔を作ろうとする玲に、胸が締め付けられた。


「…玲、俺のことはいいから。」


そっと玲の手を握る。

冷たくて、小さな手のひらに、ぎゅっと力が入った。


「タクシー、乗るとこまで送ってく。」


薄暗いロビーを抜け、時間外の出入り口までずっと手を繋いで歩いた。


「翼、ありがとう。」


俺の胸に頬を寄せ、縋るように背中に手を回す、玲。


「ぎゅっと、して…。」


不安、だよな…。

俺はより一層力を込めて、抱きしめた。

額にキスを、ひとつ。


玲、大丈夫だ。

俺はいつでもそばにいるから。


泣きそうな瞳で俺を見上げる姿に、そんな気持ちを込めて…。

玲の唇に触れたんだ。

そっと触れるだけのキスから、静かに深く求め合う唇に、お互いの温かさを確認する。

ゆっくりと離れた唇が、名残り惜しい。


絡み合う視線は、お互いの気持ちを物語っていた。




……はず、だろ…?

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