* another sky *
翼は何事もなかったように、またステップに戻っていく。
一種のファンサービスのような、この夢心地なときめきに、私は目を見張ったまま、固まってしまった。
フライングしながらスピンに入り、いよいよラストに近付いていく。
氷の上で最後のポーズを決めると、瞬時に照明が落とされた。
「きゃーっ!!吉野っ!」
桜木さんは興奮しながら、私の体をばんばん叩く。
「…へ、…。」
「今の、何っ?
演出?知ってたの?」
ぶんぶんっと顔を振りながら。
私は手の中にあるものを、指で触れてみた。
「きゃあっ!!」
スポットライトが照らされ、翼が再び浮かび上がる。
大歓声の中、翼はお辞儀をして、手を振っていた。
これ、―――――。
私の手の中のもの。
確かめないでもわかる…。
――――――。
指輪、だ。
リンクサイドへ向かう翼が、私の方へと滑ってくる。
周りの観客席がどよめく中、
「玲、愛してるよ。」
そう、ひと言残し、翼はバックステージへと去っていった。
―――――!!
もうっ…。
馬鹿。
この雰囲気、どうすればいいのよっ。
お客さんの視線がバシバシ刺さり、私はいたたまれない。
「吉野、行っておいで。
翼くん、待ってるよ、きっと。」
桜木さんは優しく微笑み、私を促した。
「普通の男には、出来んで、これ。」
諏訪さんは呆れたように笑い出す。