* another sky *
「ほらっ、吉野っ。」
「…はいっ。」
私は急いで立ち上がると、席を後にした。
もうっ。
馬鹿。
馬鹿。
ばかっ!
もう席に戻れないじゃない…。
真っ赤になった私は通路を抜け、重たいドアを開ける。
人気も疎らなロビーに出ると、翼は笑って待っていた。
――――!!
「もうっ!!恥ずかしかったんだから!!」
翼は私を見つけると大きく手を広げた。
「……っ。」
迷わず翼の腕の中に、飛び込んでいく。
「どうだった?」
強く抱き締めながら、耳元で囁いて。
「すっごい、感動したっ。
すっごく良かったよ。
手が、手がね、震えちゃって…。
翼、格好良かったよっ。」
「まじか。」
翼は満足そうに笑うと、素早く私の頬にキスをする。
「……っ。」
「びっくりした??」
ロビーにいた人たちは、何事かと見守っている。
それがさっきまでショーに出演していた、
『上原翼』だとわかり、人だかりができはじめた。
「ちょ、―――!!
翼っ、みんな、…っ。」
「いいの。いいの。」
翼は私の手のひらから指輪を取り出すと、そっと左手の薬指にはめてくれた。
「ずっと、一緒な。」
うん。
うん…。
声にならない。
「俺が、玲を一生、幸せにする。」
たすくっ…。
「愛してるよ。」
「私も、大好き、だよ。」
パラパラと拍手がまだらに起き始め、それはやがて大きな拍手となっていく。