* another sky *


「買い物くらい私がするじゃないですか」


「何でよ。あんたが行けば諏訪君は出張行かなくて済むんだし、一石何鳥にもなんのよ」


「でも諏訪さん……。
神戸出張、楽しみにしてたような……」


「楽しみ…??」


会社の中でもトップに入る美貌。

社内の誰よりもオトコマエ。

男性社員からも恐れられ、一目置かれている桜木さんの眉が、片方だけ上がる。


「んなわけ、ないでしょ」


研修中に、何度叱られたかわからない。

泣こうもんなら、放っておかれる。

甘えようもんなら、突き放される。

この仕事は男だろうが女だろうが関係ないってことを、きっちりと教えてくれた。


何より仕事を最優先してきた桜木さんが、


「諏訪君もね、本当は妊娠後期の可愛い嫁をおいて出張なんか行きたくないっての。」


こんな可愛いことを言い出すなんて。


「え、じゃあ…これ」


人は変わるもんだなと、私は笑いが抑えられない。


「送んなくてよし。
吉野が直接、持って行きなさい」


「……はい」


思わず噴き出した私に、桜木さんも一緒になって笑った。

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