* another sky *
「あっ、高い時計とかじゃないよ!
来年、就職でしょ。
シンプルな腕時計なら、仕事でも身につけられるし。」
「なんだぁ。
ロレックスとか言い出すかと思ったぁ。」
麻友理はケラケラと笑い出す。
「そんなわけ、ないじゃーん。」
「そうだよね。
玲がブランドを指定してきたら、とうとう目覚めたかって笑っちゃう。」
「梨花と綾子の話、ちっともわかんないもん。」
最新の流行に敏感な梨花と綾子は、購読する雑誌すら全然違う。
「私もどちらかというと…。
ブランドのバッグにお金をかけるなら、美味しいもの食べたり、旅行行きたいって思っちゃう。」
「わかる、それっ。」
あはははは、と二人で笑いだす。
「じゃあ、玲はどんな時計が欲しいの?」
「この前ね、バイト先の社員さんがすごく綺麗な腕時計、してたんだよね。」
「へぇ、どんな感じ?」
「就職決まったし、ご褒美に自分で買おうかと思ってるんだけど、ちょっと予算オーバー。
あ、ほら。こんなの。」
私は雑誌をペラペラと捲り、指をさす。
そのページには、人気の女優さんがモデルをしている、シンプルで上品な感じの、文字盤が美しい腕時計の広告が載っていた。
7万円程の、私にはちょっとお高い、腕時計。