Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「でね?私が隔月で寄稿しているミニコミ誌のWebサイト、あるじゃない?」
キャサリンは地元の繁盛店の経営者としてだけでなく
ファッションリーダーとしても地元では有名だった。
またこの頃は、ファッションや美容はもちろんのこと
趣味のガーデニングやインテリアコーディネート、料理などの写真も
ブログに上げたことが発端となりライフスタイルの提案者としても
カリスマ的存在になりつつあった。
オネエという個性も手伝って、今や地元の有名人だ。
いくつかのローカル紙に連載枠も持っている。
「うん」
「あそこで連載小説を始めることになったのよ」
「キャサリン、今度は小説書くの?」
「ばっかねえ、違うわよぅ。私じゃなくて、そういう企画が始まるってことよ」
あらそう、と気のなさそうに答えた絢子は微かに湯気がたつ炒飯を
口に運んだ。
「担当がさ、地元の人間であればプロアマ問わないっていうから
アンタの小説、読ませちゃったの」
「うん・・・ええ?!」
絢子は頬張っていたチャーハンを噴出しそうになった。
「したら、OKでちゃったのよ~」
「マジで?!」
「マジ」
「ホントに?」
「ホントに」
「いいの?!」
「いいんじゃない?向こうがいいって言うんだから。
ま、多少の手直しは必要だって言ってたけど
それでアンタがオッケーなら問題なしでしょ?」
「全然オッケーよ!」
もしかしたら・・・澤田にも読んでもらえるかもしれない。
絢子はふとそう思った。Webは世界中を繋いでいるのだから。
「それでね・・・アーヤ」
「なに?」
「私がいう事じゃないかもしれないんだけどさ。
小説のラスト、ちょっと変更したらどうかと思うんだけど」
「どんな風に?」
「ヒロインが実は新しい命を授かっていましたってことを
書いたらどうかと思って・・・さ」
キャサリンの左手が絢子のお腹に優しく触れた。
8ヶ月を迎えたお腹は重々しく少し下がってきている。
「彼に知らせないのはいい。それはアンタが決めることだし。
でもさ、どっかに記しておいてもいいと思うの。・・・この子の為に」