Enchante ~あなたに逢えてよかった~
妊娠を医師から告げられたときは
絢子自身、まさかと耳を疑った。
来るべきものが来ないことに気づいても
それが妊娠だとは夢にも思っていなかった絢子は
一時的な生理不順かなにかだろうとさほど気にも留めていなかった。
しかし吐き気を頻繁にもよおすようになったので
不安になって婦人科を受診してみれば
妊娠2ヶ月だと診断され、絢子は心底驚いた。
「以前、事故に遭って以来、妊娠は極めて難しいと言われたのですが」
「極めて難しいというのは、ごく僅かな可能性があるということにも
なります。奇跡と言っても過言ではないでしょう」
そう言って医師はにっこり笑って、こうも告げた。
しかしこれが最後のチャンスかもしれません、と。
絢子は飛び上がりたいほど嬉しかった。
子どもは産みたい。我が子をこの手に抱けるなんて夢のようだ。
けれど・・・と絢子は唇を噛んだ。
生まれてくる子どもは完全な私生児となってしまう。
果たしてそれが子どもにとって幸せだろうか・・・
もちろん、全力で愛して育てて、自分の命と引き替えにしてでも
絶対に幸せにする。その決意と自信はあったが
やっぱり自分の自己満足ばかりではないだろうか・・・という
拭いきれない不安と迷いがあった。
父親の居ない寂しさや引け目を感じさせないとは言い切れない。
どうしよう・・・
そういって俯いた絢子を一喝したのはキャサリンだった。