Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「彼には・・・知らせないのですか?」
祝杯の乾杯を煽った後で、大和が絢子に尋ねた。
妊娠を告げられた瞬間から絢子の頭の片隅に
ずっと引っかかっていたことだった。
「うん。知らせないつもり」
「それは もしかして 例の噂を気にして?」
澤田には復帰後から新たなスポンサーがついていた。
そのスポンサーの副社長でもあり、社長令嬢でもある女性と
婚約間近との記事が週刊誌に載ったのは今から半年ほど前だった。
「あんなの、販促のためのでっちあげのゴシップにきまってるでしょ」
キャサリンが呆れたように呟いた。
「しかし火のない所に煙は立たないといいますし・・・
件の彼女は次期社長でなかなかのやり手で、しかも美人ですからねえ」
神妙な顔つきで大和は腕を組んだ。
「おまけに相手はあの駿ちゃんだものね。そりゃマスコミにしたら
格好のネタだわ。火のないところに火をつけて煙を立たせてでも
囃し立てたいでしょうね」
「その噂の真偽はどうであれ・・・」
大和とキャサリンの会話を抑えるように絢子は少し声を張った。
「子どもを理由に彼とよりを戻すつもりはないの。
納得をして選んだ結末が今なの。もし本当に彼との縁があるのなら
いつかどこかできっと再会する。再会できなければ
私たちはそれまでの縁だったってこと。それでいいと私は思っているの」
澤田がスポンサーの次期社長と結婚して安定したスポンサードを
受けながらプレイヤーとして邁進する人生を選択するのなら
それもまた彼にとっての縁だ。絢子はそう思っていた。
「だから、また余計なお節介 しないでね?大和くん」
「え?」
「こっそり彼に知らせるとか、絶対にしないで」
「あ・・・し、しませんよ。そんなことは」
「大和君には前科があるからなあ。信用できないのよね」
「あの時とは状況が違います。こんな大切なことは
ボクからは話せませんよ」
まあまあ、二人とも、と宥めるように声をかけたのは
キャサリンだった。
「生みの親はあの澤田駿。育ての親が私と佑ちゃん。
いいじゃないの。それで。最強の子になるわよ~」
キャサリンは絢子のお腹に語りかけながら、そっと撫でた。