Enchante ~あなたに逢えてよかった~
結局、絢子はキャサリンの助言に従い、最後を書き換えた。
授かった子どもは駿との愛の文字通り結実であり奇跡なのだと綴って
締め括った。
原稿は臨月に入って一週目に完成した。Webページに構築するのは
担当者に任せて、絢子は今は静かに出産を待つ日々を過している。
実家の両親も絢子の妊娠には大いに驚き、シングルマザーになることにも
戸惑っていたけれど、絢子の決意を聞き、全てを受け入れてからは
初孫ができたことをとても喜んでくれた。
家と土地を処分して、産後は実家へ戻って暮せばいいとも
言ってくれた。
大和も臨月に入ってからは毎日仕事の帰りに訪ねてくれる。
キャサリンも忙しい合間を縫って顔を出してくれる。
もう何の不安もなかった。
『 命名 光 』
日の出に鶴が書かれた用紙は大和が準備したものだった。
そこに黒々とした墨字で書いたのも大和だった。
実は毛筆は特技なんです、というだけあって
なかなかの達筆である。
随分前から名前は決めていた。
光 の一文字で、男なら ひかる
女なら ひかり と読ませる。
どちらが産まれてくるのかはあえて聞かないことにした。
この子は絢子の人生に差した光そのものだからだ。
あけた窓から渡る早秋の乾いた風が
絢子の手元の紙を小さくはためかせた。
end