Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「まあ 僕も当時は東京を離れるつもりはなかったですし
教員採用が無ければ、塾の講師でもやろうかなぁと思ってましたしね。
祖父も無理はせずに気が向いたらでいいと言ってくれましたし
それなら、とその時は断わったんです。
学園経営とか、そんなしんどいことは御免だったし
サラリーマンのが気楽でいいと思ってましたしね」
しかしその2ヵ月後、祖父が病で急逝した。
学園を閉めるにしても、新学期が始まってしまった以上
最低でも一年は継続していかなければ
園児と保護者に顔向けができないから、と祖父の妻だった大和の祖母が
急遽理事長代理を務めることになったが
やはり彼女も高齢で、持病もあったために翌春まで継続することが
難しい状況となった。
その祖母から是非にと請われたのは、その夏のことだった。
「その時は塾で講師をしていましてね。え?採用試験?
あぁ、残念ながら落ちまして。でも塾の講師も自分には合ってましてね。
結構 楽しくやってたんですけども・・・
祖父と祖母には子どもの頃から可愛がってもらいましたし
そのお返し・・・というか、大学で教育課程を専攻したのも
無意識に祖父の影響を受けていたのかもしれないなと思いましてね。
それで2学期から祖母の後を継いだんです」