Enchante ~あなたに逢えてよかった~

飄々として穏やかな大和はスクール生からのウケがとてもよかった。
穏やかな人柄はもちろんだが、何と言っても抜群にテニスが上手い。
「学生時代にちょろっとかじった程度ですよ」と笑うけれど
そんな程度じゃないのは誰が見てもすぐにわかった。


それもそのはず。
大和は中学高校と関東にあるテニスの強豪校出身で
名門とまで称されるテニス部の部長を務めていたのだ。


当然、試合経験も豊富でゲームメイクも上手かった。
大きな大会を目指すハイレベルなジュニア選手達と
社会人の大会での入賞を狙う大人たちにとっては格好の練習相手。
彼の加わるレッスンにはいつも参加希望者が定員いっぱいになった。


今日のレッスンでは絢子とは別のクラスで汗を流した大和は
帰り支度を早々に済ませ、ロッカールームから出てくる絢子を
待ち構えて、また彼女を口説きはじめた。


「お嬢さん。夜道は危険です。お送りしますよ」
「大和クンと一緒の方がもっと危険じゃない?」
「あぁ、なんと嘆かわしいことか!未来ある少年少女の育成に
心血注いでいるこのワタクシが危険だと貴女は仰るのか・・・」


まるで歌劇の俳優のように大げさなジェスチャーつきで嘆く大和に
絢子は毎度毎度ご苦労な事だと呆れて笑った。
そんな彼女にヘッドコーチの柏木から声がかった。



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