Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「ま、スランプなんて誰にでもあることだよ。
大体、君はデビューしてから順調過ぎたんだよ。これもいい薬だ」
言われなくても自分でも順調過ぎて怖いくらいだった、と
澤田はため息をついた。
「17歳で渡米。18歳でプロデビューして20歳の時にはランキング30位。
その翌年に全英でベスト16。同じ年のマスターズの大会でも成績を上げて
22歳の時には全米でベスト8。ランキング20位は邦人としては快挙だよ」
まるで自分の事のように滑らかに
澤田の経歴を諳んじる三木に目を見張りつつも
こんな風に常に気にかけてくれている事が
嬉しくてありがたいと澤田は思った。
「快挙・・・か」
本当にそうだったと澤田は自分でも思っていた。
勢いづくというか調子付くというか
気力体力技術力精神力の全てのピークが
ぴたりと重なった結果だったのだと。
もしかしたらこの状態が永遠に続くのではないかと
謙虚で驕らない澤田でも自惚れてしまうほど好調期は順調に続いた。
が、実際はそう甘くはなかった。