Enchante ~あなたに逢えてよかった~

「これでも一応、防犯はしてるのよ?
警備会社のセキュリティシステムにも登録してるし」

「うーん。それでも・・・ちょっと心配ですね」
「そう?じゃあ、犬でも飼おうかな。大きいの」
「それは名案ですが、どうせなら犬よりもっと頼りになる生き物は
どうです?」


大型犬よりももっと頼りになる生き物?
そんな生き物といえば、まさかトラとかライオンとか家に置けと
バカな事を言うのじゃないわよね?と絢子は怪訝な視線を大和に向けた。


「下宿人を置いてみませんか?」
「下宿人?」
「そう。確か二階にゲストルームがあると言ってなかったですか?」
「ええ、まぁ一応ね。ゲストルームを兼ねた空き部屋なんだけど…」
「ボクの後輩なんですが、これが今時珍しいくらい品行方正で
人畜無害な好青年でしてね。役に立ちますよ、きっと。お奨めです」


人畜無害って・・・無農薬の野菜じゃあるまいし、と
絢子は呆れてため息を吐いた。


「あのね、お奨めですって言うけれど、それって男の子でしょう?」
「もちろん」
「ダーメ。男の子は困るわ。女の一人暮らしなのよ?」

「わかっていますよ。だからこそ用心棒が必要でしょう?
彼はとても信頼できる人物ですし堅物の紳士です。うってつけですよ」


用心棒という響きから絢子が想像したのは
骨太でマッチョでごつい怖い感じの人だった。
それはそれでちょっと嫌だな、どうせなら
可愛いコがいいなぁと思う自分に絢子は心で自嘲した。


「でも・・・男の子はやっぱりマズイわ。ご近所の手前もあるし」

「その辺はホラ、適当に。遠縁の親戚の子だとか
海外に行ってた従弟とか何とか」

「うーん、でもなぁ・・・」

「実を言うとその後輩、本当に海外で仕事をしていましてね。
今回の休暇が終わったらまた向うへ戻るんです。
なので下宿といってもこの先何年もと言うわけじゃない。
とりあえず三ヶ月くらいの期間限定という事でお願いできませんか?」

「それならアパートを借りればいいでしょう?」

「それはそうなんですが・・・
実はあまり短期だと貸す側もイイ顔しないんですよねぇ。
ウィークリーマンションみたいなのも当たってみたんですが
ちょうど空きがなくて。
それにね?絢子サンのところの方が何かと都合がいいんですよ」

「都合がいいって、どういう事?」


意味が分からなかった絢子は眉間に皺を寄せて
大和に怪訝な視線を向けた。


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