Enchante ~あなたに逢えてよかった~
キャサリンと絢子は何度と無くレッスンが同じになって
顔見知りになった。
彼の身長は170を越えか越えないかくらいだ。
少し大柄な女性とさほど変わりがなく
服のサイズも物によっては女性用のLかOが着れてしまうというから
男性としては小柄になるのかもしれない。
その上、痩身で なで肩で小顔なので
女性っぽい仕草も装いも違和感がない。
肌や髪の手入れも女の絢子以上に行き届いていて
お洒落にも敏感だ。でも過剰さも過激さもなく
(テニスウエアだけはド派手だったけど)
そのスタイルには常に清潔感があり好感が持てた。
年齢こそ不詳だったが、お洒落だけでなく、グルメやレジャーなどの
女子好みの情報も豊富で流行にも敏感なキャサリンとの会話は
とても楽しくて絢子はすぐに仲良しになった。
レッスン後のティータイムがレッスン時間の倍以上になることも
しばしばだった。
そんなキャサリンの仕事は言わずと知れた水商売だった。
繁華街の一角でバーを営んでいる。
ぜひ寄ってと誘われて、絢子も仕事帰りにふらりと寄ったことがあった。
想像通りオネエだらけで賑やかで楽しい店だった。
店はその一軒だけだとばかり思っていた絢子は
ここもキャサリンの店だと聞いて驚いた。
しかもがらりと雰囲気が違う。そのギャップにも驚かされた。
「いいのよ。ここはお商売しようというより
私が来たいと思う店なの。そう思える店がなかなか無いから
自分で造ったのよ」
「うわー。ちょっとそれ、かっこいい」
「んなイイもんじゃないわよ。ただのエゴ」
「おや、めずらしく殊勝に謙遜してますけど・・・
どっか具合でも悪いですか?」
悪戯な笑みを浮かべた大和が絢子とキャサリンの会話に割って入ってきた。
「珍しいとは何よぅ。私はいつも控えめです~。ついでに健康です~」
唇を尖らせ、持っていた扇子を開いてひらひらと大和を仰ぎながら
不服そうにキャサリンがそれに答えた。
「ただのオネエじゃないとは思ってたのよね・・・」
「ええ、ああ見えてかなりのやり手ですよ?」
「あらん。やり手だなんて、大和ちゃんったらよくいうわ。
私のコト、どこまで知ってるっていうのよ?
誘っても・・・ 今まで一度もなびかなかったくせに」
「そっちの趣味はありませんからね」
「そういわずに。一度試してみたら?食わず嫌いはだめよぅ」
「食わなくても好みに合わないのはわかってますから」
「そんなの、食べてみなくちゃわからないじゃない?ん?」
キャサリンは艶めいた声で囁くと
大和にしな垂れかかって、耳に息をふっと吹きかけた。
「わかりますから~。遠慮しときますよ」
「だーいじょうぶ。オネーサンに任せなさい。
新しい世界を見せてあ・げ・る♪」
「そんなの、見なくていいですから!」
大和を口説く(迫るのほうが適切かもしれない)キャサリンと
拒み逃れようとする大和の姿は、絢子にはいつもの見慣れた光景だった。
やってろ、やってろ、と心でごちて 絢子は グラスを掲げ
男前の板前に おかわり、と告げた。