Enchante ~あなたに逢えてよかった~

そんなことがあったために、澤田は大和に対する敬意が
他の者よりも深い。
会うなら会うと事前に知らせてくれれば
手土産の一つも準備したのに、と澤田は恨めしい気持ちになった。


「お前の気持ちはわかるけど、卒業して何年になると思ってるんだ?
そう律儀にしなくても大丈夫だよ」
「それはそうかもしれないが・・・」
「心配するな。失礼になんてならないから。お前には今回のことは
何も話してないってこと、先輩は知ってるし」
「何だ?それは。どういう意味だ?」
「すぐに分かるよ」
「分かるって・・・?」


「皆さん、元気そうですね」



大和は三木の脇から覗き込むように澤田と糸居に声をかけた。



「はい、おかげさまで。先輩も変わりませんね」
「まあね」
「お忙しいのに色々とお願いしてしまって、すみません」
「いえいえ、お役に立てて嬉しいですよ」

「おい、三木」


遠慮がちに声を上げたのは澤田だった。
三木はさも聴こえなかったかのように澤田を無視して
大和に声をかけた。


「じゃあ・・・続きは部屋に行ってからしましょうか。
ここで立ち話も何ですしね」


今、ここで何を訊ねても望む答えが得られないと悟った澤田は
小さく息を吐いた。
三木と澤田のやり取りを横目に捕らえた大和は口元を弛ませた。
三木のマイペースさに振り回される澤田を見るのは久しぶりで
懐かしい思いがした。



「皆さん、チェックインは済みましたか?」
「はい」
「では、行きましょうか。あぁそうだ!差し入れを持ってきましたよ?どうです?」


そう言って大和が掲げたのは地酒らしい一升瓶。
さっきまで飲んでいた知り合いの店の秘蔵の一本を
譲ってもらってきたのだとか。
ゴクリと喉を鳴らした三人は人並み以上に酒に強い。
勿論その提案に異存があるはずがない。


それならば自分の部屋を提供しようと澤田が言い
グラスとルームサービスを頼んでくると三木がフロントに走り
その三木の荷物を空いた手に持ち「行きましょう」と大和を促した糸居。



「チームワークの良さはまだ健在ですねえ」



後輩達の無駄の無い動きに大和は感嘆の声を上げた。

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