Enchante ~あなたに逢えてよかった~

部屋について早速した乾杯の後、懐かしい話から始まった深夜の宴は
酒瓶が空になったのを頃合にお開きにする事になった。


大和は帰り際に、しばらくは骨休めを兼ねてのんびり過すことを
澤田にに提案した。すると澤田は、遊んでいるのは性に合わないから
すぐにでも何か仕事を探したいという。


「澤田くんはもう少し不真面目を覚えた方がいいね」
「はあ・・・」
「まぁそれは追々ね。ところで仕事というけれど
君はテニス以外に何ができるの?」


核心をつく一言に噴出しそうになっているのを必死に堪え
クスクスと笑う三木と糸居を、澤田は一睨みして咳払いをした。


「海外生活が長くなりましたので、語学なら少しは」
「それは素晴らしい!・・・ですが、仕事となると
日常会話レベルというワケにはいかないでしょう?」
「英語はTOEICが950点でフランス語はDELFがC1です」
「おお~さすがだね!と言いたい所だけど・・・TOEICはともかく
そのフランス語の何たらのC1って何?」


ああ、それはボクからご説明しますよと三木が小さく手を上げた。



「DELFというのはフランス文部省が認定したフランス語資格試験です。
C1というのは6段階に別れたレベルの上から二つ目です。
C1を取得するとフランス留学の際のフランス語能力評価試験が免除になります」

へえ~と感嘆のため息を落とした大和が
「お見それしました」 と両手を小さく上げた。


「あと日本で使える資格としてはジュニアスポーツ指導員の資格と
テニスに関しては必要ならば上級コーチの資格をすぐに取得します」


よくよく聞けばジュニア指導員については
大学在学中に通信教育で取得したとか。
プロとして活動しながらきっちり大学も卒業し
語学認定試験でも好成績を収め
その上通信教育で資格まで取るとは。
中学生時代から勤勉で真面目だった澤田らしいといえばそれまでだが・・・
嫌味なくらいに隙も卒も無いね、と糸居が苦笑いをした。



「わかりました。僕も心当たりを当たってみましょう」
「よろしくお願いします」
「ああ、それから澤田くん。到着早々ですみませんが
明後日の午後に家主に会うからそのつもりで」

「はい」



澤田は、住居の手配も大和に頼んだのだと
ついさっき三木から聞かされたばかりだった。
家主というからには、不動産屋のような仲介業者ではなく
物件を所有するオーナーに直に会うのだろうと思った程度で
特にその事を気に留めることなく大和を見送り
他の二人もそれぞれの部屋へ見送った後、床に就いた。



全ては明日から。いや、明後日か。



そんな事を思いながら程なく深い眠りに落ちた澤田は
その明後日、大いに困惑することになろうとは
夢にも思っていなかった。



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