Enchante ~あなたに逢えてよかった~

「下宿?!」

「ええ」


澤田が大和から事の詳細を聞かされたのは
その家主のところへ向かう車の中だった。


手頃な賃貸の物件に空きが無かったのは仕方がないし
下宿が嫌なわけではない。
見知らぬ土地で人情に触れながら過すのも悪くない。
ただ、その家が独身女性の一人住まいだというのが気にかかる。
部屋を借りる自分はいい。でも貸す側のその女性はどうだろうか?
年配のご婦人ならまだしも、30をいくつか過ぎたばかりだと
いうではないか。いくら年上とはいえ、片手分の年の差など
あってないようなものだ。何とも気を使う・・・と澤田はため息を吐いた。


「君の言いたい事は大体わかります」

「それなら・・・」

「しかし彼女にも君が必要なんです」

「見ず知らずの女性に必要とされても困ります」

「ハハハ・・・。確かにそうですが、君の考えている意味とは
ちょっと違うんですよ。何と言うか・・・ギブ&テイクです」

「はい?」

「彼女、ああ、松平絢子サンと言うのですが
最近絢子サンのお宅のご近所に下着泥棒がうろついているらしいんですよ。
で、彼女の家が女性一人の住まいだとわかったら
奴さん、泥棒だけでなく何をしでかすかわからないと思いませんか?」

「はあ・・・まあ そういう危険性は否定できませんが」

「でしょう?となると男が一緒に居た方が安心だと思いませんか?」

「その人には恋人は居ないのですか?」

「はい。不思議と居ないんですよ。素敵な人なんですけどねえ。
だから用心棒代わりに下宿人を置いてみてはと提案したんですよ」

「提案・・・?もしかしてその人が望んでいたのではなくて
先輩から提案したんですか?!」

「え?ええ、まぁ。そうなりますか・・・ね?」


何が必要としている、だ。それなら何も自分でなくても構わない。
話が違うじゃないかと澤田は更に深いため息をついた。


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