Enchante ~あなたに逢えてよかった~
快挙と称えられた年から2年。
澤田のランキングは小さな浮き沈みはあったももの
30位以内をキープし、そこそこの戦績を残してきた。
日本でのテニスへの関心や普及度は、野球やゴルフに比べて格段に低い。
しかし澤田の活躍により彼の名を認知する人も増えていた。
近年においてはテニスの地位の向上と普及に貢献した稀な一人でもあった。
しかしその年の全豪オープンでまさかの出来事が起こった。
上位シードでありながら初戦敗退をしてしまったのだ。
相手はジュニア上がりの19歳のスペインの新鋭。
ランキングもキャリアもはるか格下の相手にフルセットを戦い
最後はタイブレークまでしての惨敗。
澤田にとってこの一戦はプロになって以来、初めて味わう屈辱だった。
そしてその結果以上に、関係各誌の酷評が澤田にダメージを与えた。
違う。格下だからといって油断していたのではない。
侮っていたわけでもない。余裕だったわけでもない。
いつだって挑戦者の気持ちで挑んできたのだと臍をかむ思いで
新聞を握り締めながらも、澤田は
ふと自身の心に小さな猜疑が生じたのを感じた。
本当にそうだろうか・・・?
どこかに侮り驕る気持ちがあったのではないだろうか?―――と。