Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「今、澤田から聞いて分かったと思うけど
アイツは僕たちの想像を遥かに越えた世界で生きてるんです。
こことはまるで次元の違う過酷な世界だ。
澤田はそこにまた戻らなきゃいけないのに
こんなに居心地のよい場所にいたら
もう戻らないといいだすかもしれない。
だからあまり甘やかして里心つけないで下さいね?」
絢子との距離を少し詰めた三木の視線には
挑発とも警告ともいえない色が光っていた。
「甘やかす?・・・どういう事? 分からないわ」
絢子の本心だった。
部屋を貸すだけの関係で何をどう甘やかすというのか。
その意味も、三木の本意も、絢子にはわからなかった。
「んー。とりあえずは過剰に親切にしないで欲しいって事かな。
それを澤田が特別な感情として受け止めちゃったら困るし」
「そんな事は・・・」
「あるよ。事実 澤田は貴女をとても気に入っているみたいだから
ただの親切を別の意味に解釈する事だってあるんじゃない?」
「澤田さんが?私を?まさか!」
絢子にとっては寝耳に水のような話だった。
「そうでなきゃ、妙齢な女性が一人で暮す家に下宿なんて絶対にしない。
澤田はそういう男だ」
その逆も言えると絢子は思った。
自分に対して色めいたモノを感じなかったから
抵抗が無かったのかもしれない。そして仲介は大和だ。
確かに是非にと言ったのは澤田本人だったけれど
先輩後輩の関係を重んじる体育会系出身ならば
先輩の顔を立てた、とも考えられる。
「三木さんの思い過ごしじゃない?」
「そうなら良かったんだけど。残念ながら違うんだな、これが。確信したよ」
その自信の根拠はどこにあるのかと絢子は怪訝な表情で三木を見つめた。