Enchante ~あなたに逢えてよかった~
4 toi et moi
それから約束通り皆で家の内外の掃除をした後で
引っ越し祝いを兼ねて皆で夕食を摂ろうということになった。
「引越しとくれば蕎麦ですけども
せっかくなので寿司でもとりましょうか」
大和の提案に異を唱える者などいるはずもなく
満場一致で大賛成だった。
「まさか回っている寿司・・・とか言わないですよね?」
にこやかに念を押した三木に大和はしれっとして答えた。
「ボクは結構好きですよ?回転寿司」
「僕だって嫌いじゃないですよ?
でもこうやってはるばる遠方から訪ねてきた可愛い後輩に
ご馳走するのに回転寿司なんて・・・
そんな寂しいこと、他の先輩はしても大和先輩だけはしませんよね?」
大和は苦く笑って小さく両手を上げた。
「はいはい、しませんよ。しません。勝てませんねえ、三木君には」
こういう人たちなんですよ、と絢子に向って小さく呟いて
携帯を取り出すと行きつけだという寿司屋に電話をかけ
慣れた風に注文を済ませて通話を切った。
小一時間ほどで届けてくれるという。
老舗の寿司屋が週末の夕方の時間帯に
予約なしの出前にすぐに応じてくれるなんて
常連で上得意でなければありえないことだ。
さすがは地元の名士だなと絢子は感心した。
「寿司が届くまで、軽く一杯やっていましょうか」
冷蔵庫には、大和のお持たせのビールや吟醸酒が冷えている。
絢子は視線で答えると、キッチンで支度を始めた。
こんなこともあろうかと昨晩作っておいた鶏ハムと煮物を
手早く盛り付け、グラスとともにダイニングへ運んだ。