Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「いいじゃないの!こんな男前がエスコートしてくれるなら」
贅沢いってんじゃないわよ、と
キャサリンがカウンター越しに身を乗り出し
絢子の鼻先まで顔を近づけた。
「ちょっ・・・顔!近いってば」
「大丈夫よ?アンタにちゅーなんてしないから」
女には興味ないのー。と顔を引いたキャサリンは
絢子のグラスに酒を注ぎ足した。
澤田が絢子の家に来てから5日目。初めて迎えた週末の夜
絢子は澤田をキャサリンの店に誘った。キャサリンに
下宿人を紹介するためでもあった。
ゆっくり落ち着いて話がしたかったので
オネエの店ではなく先日大和に連れてきてもらった小料理屋の方に
予約を入れたいとメールでキャサリン本人に頼んでおいたのだった。
しかし今夜の紹介の前に二人が鉢合せしてしまったのは
絢子にとって想定外以上の出来事だった。
「ホントに驚いたわよぅ。一昨日、昼間にアーヤの家に行ったら
男がいるんだもの。前に悠ちゃんが言ってた下着泥棒かと思って
構えちゃったわ~」
ガーデニングが趣味のキャサリンは絢子の家の庭の世話と管理をしている。
キャサリン自身はマンション住まいで、できることといえば
ベランダガーデニングがせいぜいだった。しかも非難梯子の周辺には
鉢植え等は置いてはいけないという規制もあるので
スペース的にも精神的にも存分にできなくて不満を抱えていた。
方や絢子は、ガーデニングには興味もなければセンスもなかった。
虫も嫌いだし、草取りも面倒だからと
庭一面を敷石で埋めてしまおうかと思っていた。
それを聞いたキャサリンは 何てもったいない!と叫んで
絢子の家の庭の管理と世話を申し出たのだった。
もちろん、絢子に異論はなく、二つ返事でOKした。
「驚いたのは俺もです。勝手に家の中に入ってきて
庭先で色々と始めるから」
「アーヤったら、ちゃんと話しておいてくれないんだもの~。
この人ったら、私を見るなり臨戦態勢だったのよ?」
「すみません、俺、てっきり空き巣の類かと思ってしまって・・・」
水を使ったり、トイレを使ったりもしたいだろうからと
絢子はキャサリンに家のスペアキーを渡してある。
そのくらいの信頼関係が二人にはあるのだった。