Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「ごめんなさい。話をしておくの、すっかり忘れてた・・・」
キャサリンが絢子の家でガーデニングをするのは昼間だ。
日時も特に決まっていない。キャサリンの都合と気分次第だった。
でも昼間は仕事で不在の絢子には何の不都合もないので
特に確認はしないし、キャサリンもいちいち知らせない。
「あら、いいのよぅ。駿ちゃんは謝らないで。悪くないんだから。
悪いどころか、あの時の駿ちゃんは凛々しくて勇ましくて
すっごくステキだったわ~」
両手を組んでうっとりキャサリンに見つめられて
澤田は所在無さげに泳がせた視線を絢子へと向けた。
「ちょっとキャサリン、やめたげて。澤田くん 困ってるから!」
「ま~ケチね。いいじゃないの。ちょっとくらい見たって。
アタシにも目の保養させなさいよ!」
本当にもう!と絢子に一瞥をくれると、キャサリンは妖艶な手つきで
澤田の杯に酒を足した。
「ねえ、駿ちゃん。こんな女の送迎なんてやめて私の運転手、しない?
お給金、弾むわよ?」
「ちょっとキャサリン、ダメだってば!
澤田くんは本当ならそんなことするような人じゃないのよ?」
「あら?アンタはさせてるじゃないの」
「いえ、それは違います。俺がしたくて勝手にしてることですから」
キャサリンは、は~~っと盛大なため息を吐いてから
例の切子のグラスに吟醸酒を満たした。
「アーヤ、一杯奢ってもらうわよ?いいわね」
「はいはい。どうぞ」
キャサリンは くいっと一気に煽ると
タンと軽やかな小気味いい音を立ててグラスを置いた。
「も~祐ちゃんったら
どうして私のところに話持ってこなかったのかしら?
空き部屋ならウチにもあるのに!」
「それはさすがに・・・ねえ?」
絢子が隣に座る澤田に視線を送ると
澤田は まあ、と曖昧な笑みを浮かべて頷いた。
「ちょっと何がさすがに、なのよぅ!
私のこと、そんなに節操なしだと思ってるわけ?」
「・・・ちがうの?」
「え?・・・そりゃまあねぇ。こんなにイイ男だと
ちょっとくらいは そうなっちゃうかも、だけど?」
瞠目した澤田に妖しげな視線を送るキャサリンが可笑しくて
絢子は盛大に笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだった。