Enchante ~あなたに逢えてよかった~

それからの澤田の日常はそれまでと同じく
至って穏やかだった。


朝、絢子を役所で降ろして、そこから東に300M程のところにある
市立の中央図書館で日がな読書をして過すこともあれば
道路を覚えたいからと当て所ないドライブをすることもあった。
その途中にみつけたジムに通いトレーニングも欠かさない。


夕方になると絢子を拾って、そのまま二人で買い物をし
並んでキッチンに立つこともあれば、外で食事を摂ることもある。
そんな時の澤田は文句の付けようのない
とびきりのジェントルマンになる。
品のあるエスコート。
さりげないレディファースト。
ワインから日本酒までの博識。
食通を思わせる料理選び。
完璧なテーブルマナーと所作。
饒舌さこそないけれど、転戦で世界を渡り歩いた彼の話は
とても興味深くて、食事の手を止めて聞き入ってしまう。


澤田と向い合わせて、ごく普通の店で
和定食やパスタを食べているだけなのに
まるで高級店で食事をしているような錯覚を絢子は覚えた。


海外生活10余年の本領発揮だろうかと絢子は関心しながら
澤田の作り出すその雰囲気に
自分がすっかり淑女になったような心持で
うっとりと酔わされた。


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