Enchante ~あなたに逢えてよかった~
かと思えば掃除や洗濯の家事もてきぱきとこなした。
アイロンがけなどは絢子よりもずっと綺麗な仕上がりだった。
炊事に至っては、米を炊く魚を焼く汁物を作るの
基本的かつ必要最小限だったのが
有り余る時間のお陰でその領域が徐々に広くなり
ついにはパスタマシンを買い込んだ澤田に
パスタの手料理を振舞われた4度目の週末はさすがに絢子も驚いた。
「ね、貴方って やりだすととことんやるタイプ?」
「さあ どうだろうな?中途半端は好きじゃないけどな」
ソースの芳ばしい香りと湯気の立つ鍋を前に
濃紺のエプロンをつけた澤田の姿を見て
まるで定年退職した古亭主のようだと思った絢子は
こみ上げてくる笑みを堪えきれなかった。
「何?」
「何も?」
「笑ってる・・」
「笑ってないって!」
「何が可笑しい?言わないと食べさせない」
「違う違う!美味しそうだな~と思ったら
つい顔がにやけちゃっただけよ?」
この頃にはもう二人の会話に余所余所しい言葉遣いはなかった。
「嘘を言うと食べさせない」
そういうと澤田はガスの火を止めて
絢子の前までゆっくりと歩いてきた。
「嘘じゃないって!」
「どうだか」
「本当だってば。澤田くん、澤田さま、お願いだから食べさせて!」
お腹空いてるの~と上目使いで手を合わせて強請る絢子に
澤田は甘やかな視線を送ると
彼女の腕を両手で引き自分の腰を抱くように巻きつけた。
「澤田くん?!」
「食べさせない代わりに・・・」
「?」
「キスを」
「っ・・・?!」