Enchante ~あなたに逢えてよかった~

自分の腕をしっかりと握られたまま、澤田の背中に回された絢子は
逃れることもできず、突然のことで顔を逸らす事もできず
寄せられた澤田の唇を自分のそれで受け止めるしかなかった。


「ん・・・」


柔らかくしっとりと重なり合う感触に身も心も震え出して
思わず目を閉じると、ますます感覚が研ぎ澄まされ
触れ合うだけでは物足りなくなってくる。
それを察したかのように、澤田の舌先が絢子の唇を割って入ってきた。


焦った絢子が顎を引くと、唇が微かに離れた。
それ以上は離されまいと、絢子の腕を掴んでいた澤田の腕が
彼女の身体を羽交い絞めるように隙間無く抱きしめた。
逞しく大きな胸と長い両腕の拘束は女の絢子がどう抗っても
容易には解けるものではなかった。


僅かに動く首を いやいや、をする子供のように
左右に振ってみても 彼女の肩を抱いていた澤田の右手が素早く
絢子の頭の後ろへ回り、固定するように支えられ
押し付けられるように唇を重ね直されては 
もう微動だにさえ動くことはできなかった。


こじ開けるように開かれた唇から入れられた澤田の舌先が
熱く絢子を攻める。
それを跳ね除けるための理性という盾や警戒という砦は
信じられないほどあっけなく壊されてしまった。
澤田と暮し始めたこのひと月で、それらは絢子自身でも気づかないほど
脆く弱くなっていたのだった。


なす術がなくなった絢子はされるがままに任せるしかなかった。


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