Enchante ~あなたに逢えてよかった~
こんな・・・いけない・・・
そう思いながらも絢子は深くなるくちづけに
甘い吐息が漏れてしまうのを堪えきれなかった。
そんな絢子を責めるように頭の隅で警鐘が鳴り響いた。
わかってる・・・
わかってるから、もう・・・
内から責められ、外から攻められ
どうしようもなくなった絢子の伏せた瞼の眦から涙が零れた。
ひとつ。またひとつと連なって零れ落ちるそれは澤田の頬を濡らした。
「・・・絢子さん?」
絢子の涙の理由が分からないのだろう。
澤田の瞳には困惑の色が浮かんでいた。
「やめて・・・酷いわ。こんな事・・・」
「すみません。でも」
「あのね、お部屋は貸すと言ったけれど・・・身体は貸せないわ」
「違う!そうじゃない」
「じゃあ、ただの戯れ? そういうのも迷惑だわ。他所でやって」
澤田がそんなつもりではないのは絢子にも分かっていた。
これまでの生活で澤田がそういう軽々しい事を
躊躇い無くできるタイプではない事もよく分かっていた。
絢子があえて冷めた言葉を使ったのは澤田を避けるためではない。
むしろ自分の為だった。
一日が過ぎる毎に絢子の心の小さなひとコマが
ひとつつ・・・またひとつと
澤田で塗りつぶされていくようだった。
それを嬉しく思う自分が嫌だった。そんな自分が許せなかった。
このまま心の全てを彼でいっぱいにしてしまいそうになる自身を
諌めたかったのだ。
「違う!違うんだ、絢子さん!」
澤田は自分の腕の束縛を解いて背を向けた絢子の手首を掴んだ。
「放して」
「俺は貴女が好きだ。貴女をもっと知りたいしもっと近くなりたい。
だから・・・」
「ダメよ。私なんて好きになっちゃ駄目」
「もう、遅い」
澤田は絢子を背中からすっぽりと覆うように抱きしめた。
「お願い。やめてよ」
「それは聞けない」
「我が儘言って困らせないで!」
「じゃあ教えてくれ。なぜ貴女を好きになってはいけない?」
「それは・・・」
絢子は澤田の腕の中でゆっくりと身体を回して顔をあげると
澤田の視線に自分のそれを合わせた。
「私・・・離婚してるの。3年前に」