Enchante ~あなたに逢えてよかった~
5 理由
4年前――― それは誰もがうらやむ結婚だった。
絢子は地元では小さいながらも老舗と呼ばれる
和菓子製造業を営む両親の長女として生まれ
何不自由なく育ち、県内の短大を卒業して大手企業に就職した。
そこで受付として働いていた絢子を
取引先企業の跡継ぎである高城伸吾が見初めたのは
勤めも4年目に入った春の事だった。
伸吾は背の高いハンサムで、優しい笑顔が印象的だった。
洗練されたスタイルと品の良い身のこなしも人目を惹いた。
そんな彼に魅了されていたのは絢子たち受付のスタッフだけではなく
来社のたびにあちこちのセクションの女の子達が
そわそわと浮き足立つのが感じられた。
その彼に声を掛けられたのは
絢子が昼休みを取るために持ち場を離れようとしているときだった。
休憩に入る間際に受けた電話が少し長引いたので
もう一人の同僚には先に休憩に入ってもらっていた。
休憩中であることを知らせるためのメッセージボードと電話を
カウンターに出したところだった。
「松平さん」
「高城様?」
「よかった!まだ居た」
もう休憩に行ってしまったかと思いました、と笑った彼に
絢子の胸が小さくきゅんと音を立てた。
何度見てもこの笑顔は反則だと絢子は思いながら
お疲れさまでございます、と頭を下げた。
「私に何か?」
「あー… えっと・・・」
言い澱んだ伸吾は辺りをさり気なく伺い
周りにひと気が無いのを確認してから
カウンター越しに、絢子との距離を少し詰めた。
「この週末は何か予定がありますか?」
「私・・・ですか?」
「はい」
「特にありませんが」
「よかったら僕と食事に行きませんか?」