Enchante ~あなたに逢えてよかった~
突然の誘いに絢子は驚いて、不躾なほどに伸吾の顔を見つめた。
「松平さん?」
「・・・あ・・・はい」
「ごめん。突然だし迷惑でしたよね」
「いいえ!違います。そんなことはありません!
突然だったから・・・ちょっと驚いただけです」
「すみません」
「えっと 本当に私でよろしいのでしょうか?」
「もちろん」
「・・・嬉しいです。ありがとうございます」
よかった、と胸に手をあて安堵したように微笑んだ伸吾に
また絢子の胸が、今度は大きくひとつ跳ねた。
「時間等はメールでお知らせしますから
空メールを送ってください」
伸吾は裏にアドレスと携帯番号の書かれた名刺を絢子に手渡して
踵を返した。その名刺をしばらく掌に大事そうに乗せたまま
絢子は伸吾の背中が見えなくなるまで見送った。
高城さんに誘われちゃった・・・!!
密かに彼に憧れを抱いていた絢子は舞い上がった。
伸吾のアドレスと携帯番号はすぐに登録し
昼休みの終る頃に伸吾宛にメールを送った。
言われたままに空メールで送るのはさすがに愛想がないと思った絢子は
『こんにちは。松平です。先ほどはありがとうございました。
よろしくお願いします』と短い一文を入力した。
返信はすぐに来た。
『土曜の16時に駅前のカフェで』
挨拶すら無い用件のみの一行メールだった。
あまりの素っ気無さに、舞い上がっていた気持ちが少し冷めた。
これまでの伸吾の印象から、彼はメールでも
細やかに言葉を尽くしそうな気がしていたからだ。
でもそれは絢子の勝手な思い込みでしかない。
そうよね・・・男性のメールの返信なんて大概こんなものよね。
お父さんからの返信だってそうだもんね、と思い直して
『了解しました』と絢子もすぐに返事を送った。