Enchante ~あなたに逢えてよかった~
そんな幸せに翳りが見え始めたのは
結婚して一年が過ぎた頃だった。
伸吾の父親が経営する会社は従業員が160人程度の中小企業で
業績もまずまずで生活にもゆとりがあった。
生活は伸吾の両親との同居だった。
けれど広々とした邸宅の二階に
キッチンやバスルームを増改築してもらえたので
必要以上の干渉もなく快適だった。
家事も一日おきに家政婦が来るので
絢子がする家事は朝晩の食事の支度くらいだった。
それだって頼めば家政婦が作ってくれる。
時間的にも経済的にも恵まれた贅沢な生活を与えられた。
ただひとつ残念だったのは夫である伸吾が
予想以上に多忙の身であったことだった。
副社長としての仕事の他に、商工会や青年会議所での活動も
しなければならなかった。そこは地元の名士やら実業家やらが
集う場なので、いわゆる「付き合い」というのもある。
地域貢献のためのボランティア活動も多い。
休日昼夜に関わらず不在がちなのが
新妻としての絢子は少々気寂しい毎日だった。
気晴らしも昼間なら何とでもなるけれど
一人の夜の寂しさは耐え難い。
そのせいか食欲も落ちた。しっかり眠っても
朝は気だるさを感じるようになった。
何となく体調の不調を感じた絢子は
病院で診察をうけた。