Enchante ~あなたに逢えてよかった~
「妊娠2ヶ月です」
ドクターから告げられた予期せぬ診断に
一瞬、唖然とした絢子は 次の瞬間
飛び上がるほどに喜んだ。
病院を出てすぐに本屋へより
出産前のプレママ向け雑誌や育児本を購入し
弾むような足取りで家路を急いだ。
嬉しい! でも、と絢子はふと足を止めた。
まさか妊娠するなんて・・・
夫の不在で寂しかった絢子は早く子どもが欲しかったけれど
正直なところ、まだまだ先だろうと諦めていたのだった。
なぜなら忙しすぎる伸吾の帰宅は深夜で
彼がベッドに入るころは絢子はすでに夢の中だった。
そんな状態だったのでセックスも月に1度あるか無いかだ。
伸吾は眠っている絢子を起こしてまで
求めることもしなければ、朝目覚めたときに、ということもなかった。
たまに二人で過す寛ぎの時間にも絢子が甘えると応えはするものの
伸吾からは絢子に触れることはなかった。
この人は元々淡白なのだろうと絢子は思っていた。
欲しい欲しいとせがんだからといって授かるものでもない。
自然に任すのが一番だと絢子は自分に言い聞かせ
代わりに犬でも飼おうかと思い始めていたところだったので
本当に嬉しいサプライズだった。
そういう諸々の感情を全部ひっくるめて
今のこの喜ばしい気持ちを絢子は早く夫に伝えたかった。
でも電話やメールではなく直接夫の顔を見て話したいと思った。
出張に出ている夫が戻るのは今夜だ。帰りを待とうと決めた。
きっと喜んでくれるに違いない。
喜びを分かち合い夫婦としての絆を一層深めたい。
そう思いながら夫の帰りを待ちわびていたのに
夜、帰宅したのは夫ではなく秘書だった。