Enchante ~あなたに逢えてよかった~

意識を失った絢子は救急車で病院へ運ばれた。
命に別状は無く、軽い腕の骨折と
数箇所の打撲と擦過傷で済んだのは幸いだったと
眠る絢子の顔を見ながら伸吾はほっと胸を撫で下ろした。
その直後、医師に呼ばれ別室で告げられた事実に
伸吾は愕然とした。


「奥様が軽症だったのは幸いでしたが
お子さんは残念ながら流産でした。
今後の妊娠は・・・望めないだろうと思われます。
身体自体は1週間もすれば回復しますが
心の傷が癒えるにはもう少し時間が必要になります。
退院後にカウンセリングを受けることをお薦めします」


医師が席を立った後で伸吾は深いため息を吐いた。


「全ては俺の責任だな・・・」


独りごちた伸吾は控えたいた秘書に
良いカウンセラーを早急に探すようにと命じた。


そんな身も心も傷ついた絢子に追い討ちをかけたのは義父だった。
事故から4日が過ぎた午後。
辛い現実は麻酔が覚めてすぐ否応なく知る事になった。
あまりの事でそれを自身の現実と受け入れることができなかった。
認めなければという気持ちと認めたくない気持ちの間で
もがいている自分をどうしていいのか分からないまま
眠れぬ夜を過していたときだった。


義母と一緒に見舞いに来た義父は慈愛に満ちた微笑で
「どうかね?具合は」と絢子を気遣った。
そしてその同じ微笑を浮かべた顔で絢子にとっては
残酷としかいいようのない宣言をしたのだった。


伸吾の愛人の子を認知して引き取ると言うのだ。

< 69 / 112 >

この作品をシェア

pagetop