Enchante ~あなたに逢えてよかった~

その潔いまでの割り切りに、最初は澤田の方が戸惑った。
自分の腕の中で身悶えし艶めいた声と甘えた瞳で
強請り求める彼女は、自分に恋をしているのではないかと
ふと錯覚してしまいそうになるほど情熱的だったのだ。


しかしそれは欲情で、恋情ではないと
彼女が残していった封筒の中身を見るたびに気づかされ
のぼせかけた心が冷えた。
入っているのは束になった紙幣。遠征費としては過ぎた額だった。


そんな彼女の様を見て澤田は悟った。
彼女は自分の立場が悪くなるようなリスクは決して侵さない
聡くて狡い常識とモラルを持った人種なのだと。


それを理解し飲み込んで慣れて無情に徹すれば
実に割りのいい仕事だった。
腕や身体を痛める心配もなく長期間の拘束もされない。
自分の遠征の都合にも合わせてくれる。
彼女との関係は澤田が下部大会で初めて優勝したのを機に解消した。
二年に満たない時間は決して短くはない。
けれど未練も感傷もない円満な解消だった。


資金援助といえば聞こえはいいが
結局は男妾。ただの身売りじゃないか、そこまでするのか、と 
事情を知った者には陰口を叩かれたこともあったし
去っていった友人もいた。
でも澤田はそんな自分を惨めだとか賤しいと思ったことは
一度たりともなかった。これはビジネスだ。合意の上の関係で
無理強いしているのでも、されているのでもない。
相手も自分も独身だ。咎められる理由も責められる理由もない。


全ては夢のため――― その思いが澤田を駆り立てた。


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